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あの人の武道館ライブ

更新日:5月3日

(2025年4月25日配信のニュースレターをこちらにも掲載します)


こんばんは。エディターの田村です。



ちょうど2年前の今頃も、来日公演中の大好きなエリック・クラプトンのことをこのHappy Friday! に書いていました。(→「積み重ねる時間と音色」)

 

2年前、海外アーティスト前人未到の日本武道館公演100回という歴史的な節目を迎えたクラプトン。その時に約束してくれた通り、80歳となった彼は再び日本の地を踏み、変わらぬ姿で私たちの前に立ってくれました。

 

4月14日、初日公演に行ってきました。必ず初日に行くのは、期待と熱狂の渦巻く、開演前の武道館の最高潮の雰囲気を味わいたいから。照明が落ち、拍手と口笛と歓声の中、淡々とした物腰で舞台袖から登場するあの姿をいち早く見たいからです。

 

実は私、1987年以来ほぼすべての来日公演に足を運んでいます(1974年の初来日公演から行けたらよかったけど、さすがに幼すぎでした)。イギリスにいた1995年には、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで「Nothing But the Blues Tour」の公演を観る貴重な経験もしました。

 

40年近く同じアーティストを追いかけていると、彼の音楽と共に自分の人生も振り返れることに気づきます。学生時代、就職してまもない頃、会社を辞めてリセットした20代の終わり、再び会社員になった雑誌編集者時代、独立してからと、それぞれの時期にいつもクラプトンの音楽が寄り添ってくれていました。

 

熱狂ファンならではのアホなエピソードもいろいろあります。友達と会場で『Cocaine』に合わせて絶叫コールをしたこと(これは一人でライブに行く今でもやる)。オンライン予約ができなかった時代、J -Waveのチケット先行予約の電話を通じるまでかけ続けなければいけないので、編集長に本当の理由を言って午前半休を取ったこと(嘘でいいから病欠だと言ってくれと叱られました)。

 

仕事先から新幹線で横浜アリーナに駆けつけて、ライブ後会社に戻って仕事を続けたこと。2005年のクリーム再結成ライブがロンドンで行われると知った時は、ちょうど5月の連休中だったこともあり、2泊4日で本気でチケットを取ろうとし、夫に怒られて断念したこともあります。

 

何がそんなに好きなのか? たぶん理由の一つは、あくまで自分の好きなものを中心に据えながら、常に進化を続ける姿勢です。クラプトンの音楽を順に聴いていくと、ブルース、ロックだけでなく、ジャズ、レゲエ、フォーク、カントリーなど意外な分野も網羅していて、1960年代からのポピュラー音楽の歴史がなんとなく頭に入ります。

 

もう一つは、どの時代のどの曲にも彼の人生が色濃く率直に、そして美しく投影されているところです。

 

皆さんもおそらくご存じの『Tears in Heaven』という曲があります。1991年、幼い息子さんを失った深い悲しみから生まれたこの曲は、最近のライブでは発表当時のアレンジから少し変えたレゲエ調のリズムで、静謐な癒しのトーンから、何か明るい希望の兆しを感じさせるものになっていました。

 

今回の公演でもこのアレンジで演奏されたのですが、目を閉じて天を仰ぎながら歌うクラプトンの姿が、「もうすぐ会えるだろう息子に語りかけている」ように見え、30年以上の年月を経て、この曲は今や別の意味を帯びているようにも思えました。悲しみを昇華し、時の流れと共に変化する感情を、音楽を通して表現し続ける姿勢に、また新たな感銘を受けました。すごい。またアップデートされている。

 

会場にいる聴衆も歳を重ね、すっかり落ち着いた雰囲気で、立ち上がって踊り狂う人や、『Layla』をやってー!と囃し立てる人はもういません。ライブの時間も短くなり、即興の長ーいギターソロもないし、アンコールも1曲だけ。

 

クラプトンが元気で、また武道館で歌いたいなと思ってくれたら、また行きます。その時々の自分の変化も受け入れながら、あの確かな共感で満たされた空間で、またいつもの曲を待っていたいのです。

 

この週末は追加公演があります。武道館110回公演を達成する瞬間を、しっかり見届けてきたいと思います。

 

今週は極私的なファン語りになってしまいましたが、お付き合いいただき、ありがとうございました。


どうぞよい週末をお過ごしください!

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