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クリエイターズ・インタビュー:木村里紗子さん(マダム・ワトソン)

今回のゲストは、福岡のインテリアショップ「マダム・ワトソン」でベッドルーム中心のインテリア提案を行っている木村里紗子さん。これまでに何千人という顧客の理想を叶えた、ホテルのような心地よい寝室をつくってきました。寝室メインという点がとてもユニークなそのお仕事と、日々の暮らしの信条を伺います。

「マダム・ワトソン」のショールームにて。ふわっとやわらかな物腰だけれど、商品のディスプレイに立ち働く姿は、まさに必殺仕事人。

まず、皆さんにお聞きしている質問です。里紗子さんは、ご自身の言葉で表現すると何のプロフェッショナルですか?

ベッドルームを美しく、ラグジュアリーホテルのように仕立てるプロです。素敵なホテルにいるときの心地よい空気感や肌触りが、自分の家でも味わえることを、多くの方々に伝えたいと思っています。


ご自身も、ホテルのような寝室を持っていらっしゃるんですよね。

はい、2LDKのマンションに住んでいるのですが、平日用にシンプルなインテリアの寝室と、休日用にちょっとゴージャスなインテリアの寝室の2つを使い分けています。その分、キッチンはとてもコンパクトで、リビングダイニングの機能を休日用の寝室が果たしている、という感じです。


オフの日は、ご自宅でどんなふうに過ごすのですか?

今お話しした休日用の寝室が、もともとLDKに想定されていた南向きのバルコニーのある一番大きな部屋なのですが、そこで簡単な食事をしたり、気候のよいときはバルコニーにテーブルを出してお茶を飲んだり。ガーデニングや掃除もしますが、時間のあるときはベッドに入ったままDVDで映画を観たり、本を読んだりすることもあります。

フォーポスターベッド
平日用の寝室。シンプルなフォーポスターベッドにニュートラルトーンのベッドリネンで、パリのモダンなプチホテルをイメージ。撮影/元村明博

ホテルで過ごす休日そのものですね。でも、毎日きちんとベッドメイクして、部屋をきれいに保つのもご自身ですよね?

そうですよ(笑)! でも私、趣味がベッドメイクなので、全く苦にならないんです。ベッドメイクとアイロンがけが、絵を描くことと同じくらい好き。なんというか、リネンのしわをのばすとか、何かを磨くとか、きちんとしている状態をつくり出すのが好きなんですね。

上の写真と同じ部屋。カーテンを上手に使い、シンプルでいて贅沢な雰囲気を醸し出します。撮影/元村明博

今手がけているプロジェクトのことを教えていただけますか?

現在、コーディネート進行中の方が、福岡に3件、東京に2件、愛媛、広島、大阪、神奈川、札幌に各1件いらっしゃいます。それから、3年越しの仕事になってしまっていますが、収納についての本を執筆中です。

また最近、部屋のコーディネートの仕事のほかに、お客さま向けのベッドメイキング講座を始めました。きれいに素早くベッドリネンを替える方法や、アイロンを上手にかける簡単なテクニックをお教えするんですが、とても好評で、出張でもやってほしいと言われています。


そうでしょうね。いろいろコツがありそうですし、ぜひ自分でできる方法を知りたいです。

講座をしてわかったのですが、アイロンがけが嫌いな人って多いんですね。私はいつも「アイロンと掃除機は同じです」と言って講座を始めるんです。


??? どういうことですか?

掃除機もアイロンも、かけるとき、力を入れてごしごし押し付けていませんか? 多くの方がそうしていて、それが作業を苦痛なものにしているように感じるんです。ゴミを吸うのは掃除機、しわを伸ばすのはアイロン。だから必要以上に力を入れなくても、ふわっと置いておけば吸ってくれるし、伸ばしてくれる。特にアイロンがけは他のいろんなことをやりながらできるので、アイロンの力を信じて、自分に極力ストレスをかけずにやってみてください、とお伝えするんです。

ベッドリネンを洗濯して脱水にかけたら、洗濯機の近くにアイロン台を持ってきて、大きく広げて掛けておきます。やってみるとわかりますが、本当にそれだけで、掛けた部分のおおまかなしわは自重で伸びます。その上でシャツやパジャマなどを、少しずつずらしながらアイロンがけすれば、いつのまにかベッドリネンもきれいになっています。


なるほど。そう考えるとハードルが下がりますね。

平日、仕事を終えて家に帰ると、私は超いじわるな家政婦に変身するんです(笑)。自分で自分の仕事の穴を細かく見つける「家政婦モード」で家事をするとはかどるんですよ。日替わりで洗濯やアイロンがけ、床や壁拭き、窓磨き、シャンデリアの掃除など無心でやります。きれいになっていくのは気持ちいいし、逆に疲れが取れるくらいで。それで気が済んだら初めてオフモードに切り替えます。

お付き合いの長いお客さまの中には、年2回家じゅうのカーテンやリネン類をチェンジする方もいます。生地は大切に、デザインを変えてお仕立て直しすることも。撮影/元村明博

帰宅後にお掃除! すごいなぁ。では、お仕事をするうえで、里紗子さんが一番大切にしているのはどんなことですか?

言うまでもなく、お客さまとの信頼関係は最も大切です。オリジナルの寝具からベッドリネン、カーテン、家具、パジャマ、下着など多彩なアイテムを扱うので、個人の生活に深く入り込むうえ、寝室という非常にプライベートな空間をコーディネートする仕事ですから。毎日、ウェブサイトにコラムを書き続けているのも、お客さまに私たちの真の思いを知っていただくことや、共感やつながりをとても重要だと考えているからです。

私たちのやっていることは基本的に昔からずっと変わらなくて、お付き合いの長いお客さまも多いです。小学三年生のお嬢さんから、若いワーキングウーマン、素敵なマダム、経営者の方、熟年のご夫婦など、さまざまな方々のお部屋をつくらせていただいています。


では、どんなことが一番大変ですか?

そうですね……納期がシビアだとか、使いたい生地がなかなか手に入らないとか、時々困ったことは起こりますが、あくまでそういう現実的な問題だけで、お客さまの部屋づくりの仕事を大変だと思ったことはないです。つらいことやストレスも全くありません。お客さまにも「いい仕事ね、楽しくてしょうがないでしょう?」と言われます(笑)。


里紗子さん自身の心身の健康の秘訣は何ですか?

それはもう、ひとつしかありません。毎日、美しく整えられたベッドルームでぐっすり眠ることです。3日に1回ベッドリネンを交換しますが、特に洗いたてのベッドリネンで眠る日は疲れの取れ方が違います。私はベジタリアンで粗食なので、おいしいものを食べるよりもそれが効きます。睡眠時間も比較的短いですし、運動をやっているわけでもないのですが、健康でいられるのはこのことに尽きると思っています。加えるとするなら、ふかふかのタオルに包まれるアフターバスの時間。毎日のそんなリセットの時間があれば、もう他に必要なものはありません。

こちらは休日用の寝室。平日用とは趣向を変え、気分の上がるゴージャスなイメージに。撮影/元村明博

美しい寝室で眠る効果を、ご自身で証明しているわけですね。

はい。お客さまの中には、医療や介護の現場など、過酷なお仕事に従事している方も多いのですが、重労働やストレスの多い日常を送っていらっしゃる方にこそ、徹底的に自分好みの、気持ちのいい寝室でゆっくり休んでいただきたいと思うんです。


里紗子さんは、いつからホテルやベッドリネン好きになったのですか?

考えてみたら、かなり昔からホテルが大好きでした。小学校のときに家族旅行でホテルに泊まった楽しい原体験があります。それから学生時代、アルバイトで貯めたお金で都心のホテルのレディースプランを利用して泊まった部屋のこともよく覚えています。それほど贅沢な部屋でもなかったのですが、パウダールームにじゅうたんが敷きつめてあって、専用の化粧台スペースがあって……素敵だなと思いました。


世界中のホテルやリゾートに泊まりに行くのも趣味と伺いました。

はい、最近はあまり時間がとれていないんですが。旅に出かけると仕事柄、ついホテルのいろんなところをチェックしてしまいます(笑)。

アジアンリゾートの木陰で目覚める朝、のイメージ。ベッドリネンを替えるだけで世界中を旅する気分に。木村里紗子インスタグラムより

今までに泊まったラグジュアリーホテルでは、どこが印象に残っていますか?

シンガポールのラッフルズホテルです。改装が終わったらまた行きたいと思いつつ、まだ行けていません(注:2019年夏に修復・改装が完了し再オープン)。インテリアもホスピタリティもすべてが感動的でしたが、あれだけの格式あるホテルなのに、コンシェルジュの女性がノーメイクで、非常にフランクでいて気持ちのいいサービスをしてくれたのが深く心に残りました。自分を飾らず、素を見せることでお客さまに真摯に対応する姿勢というのでしょうか。それがとてもいいなと思い、私自身もノーメイクで接客をしようと思うきっかけになりました。


そうか、里紗子さんがあまりメイクをしないのはそういう理由があったんですね。

昨年、重い腰を上げてインスタグラムを始めたのですが、自分の寝室を公開している人ってほとんどいないんですよね。先程も言いましたが、コーディネートのためとはいえ、ご自分の部屋、しかも寝室を人に見せるのはたぶんとてもハードルの高いことだと思うのです。お客さまにそれを見せてと要求しているわけですから、こちらも本当のところを見せようと思いました。お化粧はしないけど、ベッドメイクは毎日します(笑)。


最後に、これからどんなことを実現していきたいですか?

都内にお店を出してほしい、とかなり前から言われているので、実現したいなと思っています。関東と関西、九州に1つずつショールームを作れると理想的ですね。あとはやはり、初めのお話に戻りますが、美しいベッドで眠ることの素晴らしさをもっともっと多くの方に知っていただきたいです。高級リゾートに5泊する旅に行くなら、その半分を自宅に投資すれば、戻っても同じ幸せを味わえることを知ってほしい。旅は1回きりですが、自分の部屋がリゾートなら、遠くまで贅沢を味わいに行かなくてもいい。数日の贅沢な旅の予算でできる毎日リゾートが、私としては一番心地よい過ごし方なのではないかな、と思っています。


インタビューを終えて

実は私自身も少し前に、里紗子さんに寝室のコーディネートをお願いしたことがあります。「ブルーが好きで、フリルいっぱいが苦手」というリクエストをしたところ、ごく普通のマンションの8畳ほどの部屋を「窓の外にモルディブの海が広がる」というコンセプトの、さっぱりと気持ちのいいホテルのような空間に仕上げてくださいました。あまりに気に入っていて、しばらく模様替えする気が起こらなかったのですが、そろそろ次のコンセプトを相談しようかな、と思っています。


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