ポップソングのアルティザン

旅に出る予定もない夏ですが、楽しみにしていたライブがひとつありました。山下達郎コンサート@中野サンプラザホール。自宅から30分で行けるリゾート気分?を、先日満喫してきました。

ひととき、リゾート気分。この写真ならBGMは「LOVELAND, ISLAND」「高気圧ガール」「SPARKLE」「踊ろよ、フィッシュ」「THE THEME FROM BIG WAVE」「SOUTHBOUND #9」あたりでしょうか?

若い頃から好きで聴いていたものの、ライブに行ったことはなかった達つぁん。中野サンプラザなら近いからいいな、と思って申し込んだら運よく何度か当たって(小さめのコンサートホールでしかやらないので、いつも抽選なのです)、以来何度か行くうちに、ライブならではの楽しさにもすっかりはまってしまいました。息の長い熱心なファンが多く、大きすぎない会場ならではのアットホームさもいい感じです。オーディエンスが隠し持っていたクラッカー(鳴り物は本来なら持ち込んではいけないはず?)を、あるタイミングで一斉に鳴らすことになっている40年前の曲があったりします(今回も真ん前に座った50代後半くらいのご夫婦が楽しそうに空に向けて発砲していました)。当然年齢層は高めですが、最近はYouTubeで見てファンになった10代20代も増えているそうで、三世代で聴きに来ている人たちもいたようです。


この人の創り出すものがずっと輝きを失わないのはどうしてなんだろう、と曲を聴きながらよく考えます。現在66歳の達郎氏ですが、「DOWN TOWN」は21歳のときに作った曲で、「RIDE ON TIME」は27歳、「クリスマス・イブ」は30歳、「蒼氓」は35歳、「さよなら夏の日」は38歳、「DONUT SONG」は45歳。どの年代に作られた曲もよくライブで演奏されていますが、ワクワク感、グルーヴ感、じわっとくる感が、年代や時間を飛び越えてくる感じがします。ずっと第一線で活躍している人だからできる構成だけど、もちろん単なる過去のヒット曲メドレーではなくて、でも「今も古くなっていない」という表現ともちょっと違うんですよね。なんといえばいいんだろう。


コンサートのプログラムを読んでいたら、「悲しいときに差し出されたハンカチのように。嬉しいときに称えてくれる喝采のように。」という一文で始まるセガの名越稔洋さんのメッセージが目に留まりました。「聴く人の人生のさまざまな場面を彩ってきた彼のサウンドは、それぞれの記憶を甦らせるだけでなく、未来への期待や、これからを生きていく希望と勇気の尊さを語りかける」とそこには書かれていて、過去へのノスタルジーだけでなく、いつも確かに感じられる未来への希望が、あの輝きのもとなんだなと腑に落ちました。「人生を肯定することがポップソングの使命」といろんなところで書いたり語ったりしている、その言葉どおりに。


2011年の震災の年に発売されたアルバム『Ray Of Hope』に収録されている「MY MORNING PRAYER」が、3月11日に東京のスタジオで作っていた曲であることはご存じの人も多いと思います。混乱した当時の状況下で「東京は危険だから避難した方がいい」という一部の人にしか届かなかった情報を耳にしたそうですが、そのままアルバムの制作を続行し、その後全面的に書き直して今の曲になった、いつもよりややストレートな歌詞なのでちょっと恥ずかしい、と淡々と語っていた達郎氏。「希望という名の光」も素晴らしい曲ですが、私はこの「MY MORNING PRAYER」を聴くと涙が止まらなくなります。


長く続けてきたであろう地道な努力と真摯な職人的姿勢、温かな肯定の視線をもって、ポップソングにできることを過大評価も過小評価もせずに、淡々と提示し続けるアルティザン。常にアップデートされた超一流の技術に裏打ちされているけれど、聴き手にとってはまさにリゾートのような達郎氏の音楽。たっぷりと陽光を浴び、気持ちのいい景色を見て、のんびりくつろぎながらおいしいものを食べたかのように、明日への英気を養って戻ってこられる……。そこが本当にすごいと改めて感じたひとときでした。