(2024年3月22日配信のニュースレターをこちらにも掲載します)
こんばんは。エディターの田村です。
昨年夏からスタートした書籍出版の仕事がようやく一段落し、3月24日に無事発売の運びとなりました。
書籍のタイトルは『辰巳芳子という生き方』(文化出版局刊)。歴史ある女性誌『ミセス』に掲載された、料理研究家の辰巳芳子さんの特集を一冊にまとめたものです。
1924年生まれの辰巳芳子さんは、今年12月で100歳を迎えられます。99歳の誕生日のあった昨年12月の刊行が出版社の希望だったのですが、制作サイドの試行錯誤に時間がかかり、3ヶ月遅れの発売日となりました。関係者の方々には辛抱強く待っていただきました。
書籍の編集の仕事は3年ぶりです。今回は編集と構成のご依頼をいただいた後に、実はまだ企画が通っていないので社内説得用の企画書も作って欲しいというご依頼でした。
私は辰巳芳子さんにお目にかかったことがありません。本誌で特集を掲載した当時の担当編集者やライターの方など、他に適任者がいらっしゃるのではないかと、実は一度固辞したのですが、どなたもすでに引退されているとのこと。
最後のチャンスなんです、と言われて引き受けたものの、面識もない私が新規取材の機会もなく資料を読み込んだだけで、果たして務まるのか?と少し不安を覚えながらのスタートでした。
ところで、辰巳芳子さんの数ある著書の中でも最大のベストセラー『あなたのために いのちを支えるスープ』のカバーデザインには、ちょっと料理書らしからぬ写真が使用されています。
ベルリンのバウハウス美術館を訪れた際に辰巳さんが出会ったという、一枚のアート。規則的に並んだ色彩のブロックをを見て、辰巳さんは「これは私のスープだ」と思ったのだそう。
料理を整然と図式化する理性的な頭脳をお持ちの、辰巳さんらしいその一言から、この表紙が決まったのだと、『あなたのために』でアートディレクションを担当された木村裕治さんから伺いました。
そんなストーリーと、辰巳芳子さんのそういったちょっと「攻めた」姿勢をイメージとして表現できたらいいね、という話をし、木村さんの発案で『辰巳芳子という生き方』冒頭のイントロダクションを作りました。
今回選ばれたカバー写真は、スペインで羊の群れを率いて笑顔でこちらに歩いてくる、当時60歳の辰巳さん。一般に知られている、ちょっと厳しい大御所の先生というイメージではなく、快活で自由闊達な一面を見せたい、という意図でした。
実際の辰巳さんは存じ上げないけれど、私はこの本を、辰巳さんをほぼ名前しか知らなかった人が読んでも、その強く優しい未来へのメッセージを受け取り、新しいファンになってくれたらいいな、と思って編集しました。大御所先生の偉大な足跡を賞賛と共に振り返る、単なる回顧本ではなくて。
諸事情から新たに取材はできず、写真もテキストも、すでにあるものから一冊を編む仕事。リソースが限られてはいましたが、それを逆手にとって、コンパクトでかっこいい一冊になっているといいなと思いますが…さて、どうでしょう?
今回は私のもう一つの仕事、出版編集の近況でした。『辰巳芳子という生き方』(文化出版局刊)、Amazonでも予約が始まっていますので、よろしければ手にとってご覧になってみてください。
どうぞ良い週末をお過ごしください!
Comments