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尊敬する上司のこと

(2024年12月6日配信のニュースレターをこちらにも掲載します)


こんばんは。エディターの田村です。


Photo/Micheile Henderson

私は新卒で小さな出版社に入社して以来20年間、会社員をしていたとプロフィールに書いているので、その間ずっと編集者を続けているようにも読めるのですが、実際は2年弱ブランクがあります。27〜29歳の頃のことです。

 

当時過労で入院したりでいろいろと疲れてしまい、一旦全部投げ出して貯金を全部持って1年間イギリスに行き、数ヶ月ヨーロッパを放浪して帰国しました。すっからかんになったので何か仕事でもしようと思い、少しだけ話せるようになった英語と雑貨好きを生かせる、輸入雑貨のマーチャンダイザーの職をある会社で得ました。

 

でも1年ほどした頃、ふと「あれ、編集者になりたかったのに、私何をやってるんだ?」と思いました。

 

そんな時に、学生の頃から大好きだったインテリア雑誌『雑貨カタログ』を含む雑誌編集者の中途採用募集の記事を見つけて応募したことが、数年の寄り道の後、なんとか今までエディターを続けてこられたきっかけになっています。

 

面接官の中に『雑貨カタログ』の創刊編集長がいらっしゃって、いろいろ質問してくださったのを思い出します。

 

「企画した雑貨でヒットしたものはなんですか?」と聞かれ、「飲みかけのワインを次の日もおいしくキープできるワインの栓です」と答えると、「ご自身でも使っているんですね」と言われて「いえ、私は1回で1本飲むので使ったことはありません」と真顔で答え、爆笑されました。その後、希望通り『雑貨カタログ』の配属になりました。


これは、本棚から引っ張り出してきた『雑貨カタログ』1997年9月号、編集部に参加した最初の号です。当時は隔月刊、一時は30万部を売り上げた人気雑誌でした。配属後、いきなり特集3本と連載1本を担当することになり、再び怒涛のような日々が始まりました。でも念願だったインテリア雑誌の編集者になり、大好きな雑誌を作ることができる幸せは本当に大きく、当時週末になると「早く月曜日になって会社に行って仕事したい!」と思うほど、楽しい毎日でした。


素晴らしい才能を持つインテリア&ライフスタイル分野のさまざまなクリエイターの方々に出会い、お話を伺い、その世界を誌面で表現する楽しさを、たくさん経験することになる、私の人生の中でも貴重な十数年が、ここからスタートしたのです。

 

石神編集長はいつも元気で声が大きく、仕事にかける情熱が半端なく、とても厳しい人でしたが、その熱量の高さと、誰に対してもきちんと筋を通す姿勢がが実にかっこよくて、こわかったけど、とても尊敬していました。厳しく仕込んでいただいたことを今でも感謝しています。

 

その石神編集長が、この秋に他界されたとの報が先日、当時の仲間から届きました。定年退職されてからはお話をすることもなく、私が会社員を卒業してからもだいぶ経っていますが、あんなに活発な人だったし、100歳過ぎても元気いっぱいだろうなと勝手に思っていたので、本当に驚きました。



上で表紙を紹介した号の最後のページに、編集後記がありました。張り切る様子が文面にあふれている私は、当時からクラプトンのことを書いていて、全く覚えていないのですが、家のベランダで増え過ぎたバジルの苗を、どうやら編集長にあげたらしいです。

 

あの人に出会わなければ、今の私はないだろうと思う人が何人かいますが、石神編集長もその一人です。感謝の思いを伝えるすべもない今、ここに書くことで、天国に届いてくれるといいなと思い、皆さんにお付き合いいただいてしまいました。読んでくださり、ありがとうございました。

 

どうぞよい週末をお過ごしください!

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