クリエイターズ・インタビュー:進藤由美子さん(料理研究家)

今回のゲストは、料理研究家・フードコーディネーターの進藤由美子さんです。世界中のおいしいものにアンテナを張って、きめこまやかな分析で独自の味を作り上げる、洗練されたスタイルの創作家庭料理が人気を呼び、まもなく19年目に入る料理教室「Cooking Studio Y」はいつも大盛況。料理のおいしさはもちろん、ハイセンスなテーブルコーディネートや発想力豊かなおもてなしアイデアも、進藤さんの料理教室の人気の理由です。

家にいる日はたいてい5、6時間はキッチンで過ごすという進藤さん。レッスン時のデモンストレーションもこのキッチンで。撮影/澤崎信孝

進藤さんのお料理スタイルを、ご自身の言葉でお聞かせいただけますか?

伝統的な和食からさまざまな国の地方料理まで幅広く作りますが、世界各地で親しまれている料理をよく知り、分量を調整したり、代用できる食材を考えたりして、日本人の口に合うように自分なりのアレンジを加え、新しい一皿に仕上げるのが好きです。既存の決まった料理ではなく、国内外のローカルな料理をアレンジして、さらにおいしく食べやすく、しかも難しくなく、家庭で作れるレシピにすることに情熱を注いでいます。生徒さんからは、毎回新しいアイデアがいっぱいで、器やテーブルコーディネートも参考になると言っていただいています。


これまでの歩みを簡単に教えていただけますか?

社会人としてのスタートは料理編集者だったんです。美大を卒業して出版社に入社し、女性誌の別冊として刊行された料理書の編集に携わりました。当時はフードコーディネーターや料理スタイリストの仕事が細分化されていなかったので、編集者自ら、撮影に必要な食材や器をお店を回って集めていました。料理研究家の先生から渡される作り方のメモを検証しながら、レシピ原稿を起こすのも重要な仕事でした。


現在の料理撮影のスタイルができ上がる、まさに創成期だったんですね。

そうですね。料理研究家の先生も草分け的な方々ばかりでした。その後、料理専門の撮影スタジオを経営していた時期もあります。当時はまだほとんど専門スタジオがなかったので、結構繁盛しましたね。しばらくしていったん仕事をやめて、2002年に料理教室を始めるまで子育てに専念していました。今振り返ると、これまでに積んださまざまな経験が、すべて今の仕事に役立っています。2人の息子のお弁当を20年間作り続けたことも、よい修業になったと思います。

料理に関して、新しい着想を得つづける秘訣などはありますか?

普段から食には広く興味を持っていますが、今も折に触れ、継続して新しいことを学んでいます。数年前からフランス人シェフに伝統的なフランス家庭料理を習ったり、俳句の会に在籍して、季語となる旬の食材についてのエッセイを会報誌に執筆したりもしています。それから年に数回、視察も兼ねて海外に行った際には、現地の文化や生活をできるだけ見て吸収することに努めます。昨年は北イタリア、今年はバスク地方。再来年まで旅の予定が決まっているんです。

現地ではもちろん食もいろいろ体験して、戻ったら印象に残った味を必ず再現してみます。オリジナルの味を損なわないように、でも生徒さんにもその通り再現できるように、丁寧にレシピを組み立てます。味だけでなく食材や料理にまつわる逸話、また器やリネンなど、付随する情報も惜しみなく提供するようにしています。インプットしたものに付加価値をつけてアウトプットするために、調べて分析し、レシピを編み出すという時間も、自分にとっては楽しく、大きな喜びになっていますね。


進藤さんが食に興味を持ち始めたきっかけは何だったのでしょうか。

私の母は料理の名人で、昔ながらの日本の家庭料理を、何でも一から手作りする人でした。小さな頃から母の台所で鰹節を削って毎日の食事の支度を手伝い、四季折々の料理を教わるうちに、私自身もすっかり料理好きの食いしん坊に育ったんですね。高校時代には外国料理に興味を持ち、タイムライフ社から出ていた『世界の料理』を全巻揃えて熟読。当時大人気だった名番組、グラハム・カーの『世界の料理ショー』も欠かさず観ていました。ワイン片手に、軽妙におしゃべりしながら料理を紹介する、あのスタイルが憧れでね。


今のお料理教室は、いわば進藤さん流の「世界の料理ショー」ですね。

本当だ。でもレッスンのときはさすがにワイン片手に料理はしないですよ! プライベートのときはたまにあるけど(笑)。


お仕事をするうえで、いちばん大切にしていることは何ですか?

生徒さんにもいつも言うのですが、料理は楽しくやらないと、味に関わるんです。「しんどいのに面倒だな」なんて考えながら作ると、おいしいものはできません。実際、料理の作業は材料を刻むことひとつとっても手間がかかるのですが、同じやるなら、その瞬間をポジティブな気持ちで過ごした方が自分も楽しいですしね。食べる人のことを思いながら、愛を込めて、丁寧に誠実に向き合えば、自分が心を尽くしたことによって、相手も自分も気持ちがよくなります。それが大事だと思うから、気持ちも手も抜きません。これは料理に限らず、人とのつきあいでも同じですね。


なるほど。では、苦労したこと、大変だったことはありますか? 

始めた頃は知り合いだけの小さな料理教室だったので、未知の新しい生徒さんに来ていただくためにどうしたらよいか考えるのは、第一段階のハードルだったように思います。でも、長く続けることって本当に大切で、丁寧に取り組んだ経験や喜ばれてきた実績を10年も積み重ねれば、いつの間にか自信がついてくるものです。

ほかにあるとすれば、苦労ではないですが体調管理でしょうか。大勢の方が楽しみにして来てくださるので、レッスンのある期間は体調管理に気をつかいます。18年間でお休みした