クリエイターズ・インタビュー:黒田美津子さん(インテリアスタイリスト)

今回のゲストは、広告や雑誌、住宅や商業施設の空間ディレクションなど幅広い分野で活躍する、インテリアスタイリストの黒田美津子さんです。マガジンハウス『Hanako』の創刊スタッフとして8年間編集記者を務めた後独立し、長きにわたり第一線で活躍している黒田さんは、いつも陽気で楽しく、会う人みんなを元気にしてくれる人。最近のお仕事やこれからのことについて聞いてきました。



黒田さんのオフィス「Laboratoryy」のウェブサイトを拝見しましたが、ここ数年のお仕事が一堂に見られるんですね。手がけられているお仕事の幅広さに、改めて感服しました。

そうですか? 依頼してくださる方のリクエストに応じていろんな仕事をしてきたら、自然とこうなったんですよ。さまざまな雑誌でインテリアページを作ってきて、その後、記事の執筆や構成、スタイリングから空間へと広がりました。編集者でもなくインテリアスタイリストとも言い切れず、ではスタイルディレクターかな?と、肩書きに悩んだ時期もありますが、自然に導かれて今の立ち位置になった感じです。


インテリアスタイリストは、インテリアデザイナーやインテリアコーディネーターとはまた違う職域ですよね。

素敵な空間づくりを目指す人という意味では同じですが、少しずつ違いますね。インテリアスタイリストは雑誌や広告の仕事が多く、家具や雑貨を組み合わせてスタイルを作ります。スタイリストの仕事は主にB to Bですが、デザイナーやコーディネーターは一般のお客さまの部屋を手がけることもあり、さらにデザイナーは主に設計を含む内装デザインを受け持つという違いもありますね。


自宅リビングの棚の小さなシーンにもストーリーが感じられます。『&Premium』2021年3月号特集「整えながら『収う』『飾る 』29の法則。」より 撮影/枦木功

黒田さんは長いキャリアの間に、そのいずれも手がけられるようになりました。

次第にハウスメーカーや美術館、ホテルやレストラン、見本市や展示場などのリアル空間をスタイリングする仕事が増えたので、デザイナーやコーディネーターに近い動きもするようになりました。近年は壁や床材、造作家具を含む部屋全体のディレクションや、モデルハウスを1棟丸ごと作り込むこともあって、徐々に空間全体に広がってきた感じです。建築家やインテリアデザイナーの方々とチームを組んで取り組むこともあります。


黒田さんのスタイリングは、上品で理知的で、遊び心や深みが感じられる大人の格好良さがあります。

ありがとうございます。基本的にはモダンで、そこに古いものを組み合わせたり「はずし」を入れて個性を出したり。空間を作るときは「ここに暮らしている人はこういう生活が好みだから、こういうものが置いてあるはず」とか、住む人のストーリーを考えてものを置きます。ちょっと理屈っぽいかな。仕事のスタイリングはクライアントのリクエストに合わせて、ターゲットや空間の目的も考慮するので、自分の好みとはまた別の着地点になりますね。でも気づけば、なんとなく「らしい」感じになっているみたいです。


神奈川県立近代美術館 葉山で2018年に開催された展覧会「アルヴァ・アアルト––もうひとつの自然」の特設コーナー「Aalto Room」の空間スタイリングを担当。Photo:Petri Artturi Asikainen

黒田さんがお仕事で最も大切にしている姿勢は何ですか?

依頼側の期待値に対し、最低でも120%、できれば200%の満足度を目指して「あきらめるべきときまであきらめない」ことです。なぜかというと、こちらが100%やりきったとしても、依頼側の正直な満足度は80%くらい。期待以上だったなと思ってもらうには、目標を200%くらいにおいて、常に期待より上を目指す。そうして下がらないよう気をつけてはいますね。そのうえで、なるべく楽しくやること、これもすごく大切です。当然好みの仕事ばかりではないし、短納期や難しいリクエストもある。でもせっかく声をかけてくださる方には、自分の担当した仕事で良い影響を受けてほしい。だから、いったん受けたら興味を持って、面白がって取り組むことが大事だと思っています。


幅広いクライアントを相手にしていらっしゃると、大変なことも多いでしょう。

たまに、着地点がわからずに迷ってしまうタイプの相手だったりすると、ちょっと困るときはありますね。そういうときは、ご希望に合わせながら解決策を多めに提案します。そのうえで、自分が「ここは」と思うポイントを1、2点絞り込んで、そこは折れずにしっかり主張する。それ以外は、相手の意図を汲みながら工夫を凝らします。


インテリアスタイリストの立場から世の中を見てきて、最近感じる変化はありますか?

バブル崩壊後の失われた20年、震災後と、保守的な時代が長く続きましたが、そういう時期に意思決定をしていた方々の世代交代が進んでいるところに、ステイホームの時代が来て「攻め局面」という大きな変化が起きているように感じます。発信側の特に大きな企業は、急激な変化に少し戸惑っているかもしれません。でも一般の人たちのインテリアに対する興味は、どんどん高まっているのではないでしょうか。


『&Premium』(マガジンハウス)2021年3月号特集「整えながら『収う』『飾る 』29の法則。」より 撮影/枦木功

それはとてもいいことですね。具体的にはどういうことからそう感じるのですか?

以前は「棚をどう飾るか」といったテクニックが求められていたのが、今はたとえば「気持ちのよい光」や「元気が出る部屋」といった心への効用が注目され、その理解が急速に進んでいる気がします。それは雑誌や住宅メーカーの仕事、また仕事だけではなく普段、情報を得る中でも感じることです。インテリア専門誌は減ってしまったけれど、女性誌や一般誌がインテリア特集をする機会は増えていますし、NHKで最近、意匠照明をテーマにした連続ドラマが放映されましたし。「デザイン・ドラマ」は今までにない試みですね。照明は特に、何を使うかで気持ちが相当違います。高価なものやブランドものが良いという意味ではなく、長い時間をかけ、深く考えて丁寧に作られたものの価値。それがわかる人が増えていくことは、とても明るい兆しだと思います。



心からそう思います。私もそういう人が増えたらいいなと思って仕事をしています。

そうよね。ちょっと大げさかもしれないけど、インテリアは人生をよくするものだと思うんです。「快適な暮らしを、ものを使ってどうやって整えるか」をずっと考えてきたのが私の仕事です。その部屋でどういう暮らしがしたいかは、どういう生き方をしたいかということにつながっています。ホッとしたいのか、前に進むためにパワーチャージしたいのか。帰宅したら何もしないでぼーっとしたいと思っているのに、天井からオフィスのような蛍光灯が煌々と照っていたり、リビングの大画面テレビから世界で繰り広げられるニュースが飛び込んできたりしたら、くつろげないどころか、知らず知らずのうちに殺伐とした気分を増幅していることだってあります。毎日過ごす部屋の中、作られている環境がどう気持ちに影響するかに気づくかは大切なことですよね。


著書『tangent--接点』は装丁もアーティスティック。糸綴じの背をそのまま見せる「コデックス装」です。

昨年出版された著書『tangent––接点』を拝見しました。黒田さんのご実家に受け継がれた古い着物を、テキスタイルデザインの視点から語ったアートブック的な一冊ですね。

祖母や叔母、母たちが着ていた着物がずっと箪笥に眠っていたのですが、整理しようと改めて見たら、驚くほど可愛いデザインばかりで、これは何かの形で残したいと思い、2年かけて本にまとめました。デザインジャーナリスト、染色研究家、作家など識者の方々にも寄稿していただき、明治・大正・昭和の東京の市井の暮らしの日常着の資料としても、ちょっと面白いものになったのではと思います。


着物以外にも、ご実家から受け継いだ昔の素敵な生活雑貨をたくさんお持ちで。それを今の暮らしに合うよう、いろんな分野のものづくりのプロとコラボして作り変える『&Premium』の連載も面白かったです。

そう、この連載も著書も、アップサイクルやロングライフの考え方を伝えたものなんですよ。持っているものを大切にするだけではなく、今の暮らしに合わせて形や目的を変えて使えばもっと生きる。三味線のバチをカトラリーに、桐材の茶托をブローチに、切手コレクションを蔵書票に、火鉢をキュリオケースに、桐箪笥を黒く染めてモダンなドロワーに。この考えは、サステイナブルやSDGsといった大上段に構えたものじゃなく、思い出のあるいいものを長く気持ちよく使っていきましょ、というシンプルな思いなんです。


好評につき会期延長され、2月14日まで代官山 蔦屋書店で行われた『tangent––接点』刊行記念ポップアップショップ〈つないで生かす、暮らし〉。総勢17組のブランド、デザイナーが企画に協力して展示販売に参加しました。撮影/本多康司

今後、やってみたいお仕事ってありますか?

この年齢ならではの仕事をしてみたいですね。たとえば、今はまだ日本にはない、簡素だけどセンスの良いシニア向け住宅やホームの開発とか。あとは、自分が泊まりたいホテル。ホテルを丸ごと、ロビーや客室の内装から、タオル、ハミガキに至るまで全てスタイリングさせてもらえたら楽しいかも、と思ったりしますね。

事務所のテラスで。右に見えるのは「Gallery Laboratoryy | triangle」と呼んでいる、小さな企画展スペース。

では、プライベートでやりたいことは?

これはもう、自宅の改装です。築45年の家に住んでいるのですが、古い家に古いものではなく、すっきりクールな空間に古いものをコンセプチュアルに置く、メリハリの効いた空間を作りたいんです。それが今、自分の本当に欲しい家。ギャラリーやサロンスペースも作って、実際の生活空間でアートや手工芸品のスタイリング展示や販売をしたり、誰かとワークショップをしたりと、つながりの中で暮らしを伝えるのが夢です。これまでの経験を生かした自分ならではの形ができたら、と考えています。若い頃は旅やファッションやヘアメイク、あれもこれもいろんなことに興味があったけど、今は削ぎ落とされて何を見てもそこへつながっていくし、理想のインテリア空間のことを常に考えていますね。


今改めて強く思うのは、「インテリアは励ましでもある」ということ。良い居住空間は日々、そこに暮らす人を元気づけ、励ましてくれます。私にとっては、アンドレ・プットマンやガエ・オウレンティのように、晩年まで現役で活躍した人のデザインがそんな存在で、毎日元気をもらっています。プットマンのソファとオウレンティのガラステーブルを使っていて、自宅に帰るととても励まされるんです。90代まで現役だった女性の名デザイナーが私を家で迎えてくれるなんて素敵でしょ。励まされる部屋を持つことは本当に大切。私もちからを与えられる部屋を作るために、これからも自分にできる限りのことをやっていきたいです。


インタビューを終えて

蔦屋書店で開催された刊行記念ポップアップショップで、アップサイクルされた「古くていいもの」たちを見てきました。アイディアの秀逸さもさることながら、当代随一の作り手が並ぶ顔ぶれから、幅広い人脈と強い信頼関係が伝わってきました。「励ますインテリア」、黒田さんらしい素敵な言葉で心に残ります。


黒田美津子さんのオフィス「Laboratoryy」のウェブサイトはこちら


『tangent––接点』は、ビブリオファイル、代官山蔦屋書店で販売中。黒田さんの会社から直接購入もできるそうです。お申し込みはメールで mitsuko@laboratoryy.comまで。

3月20日から世田谷美術館で開催される「アイノとアアルト 二人のアアルト フィンランド––建築・デザインの神話」展にて、アルテック、イッタラの開設するアアルト体験スペースの空間構成とスタイリングを担当。お近くの方はぜひ!