クリエイターズ・インタビュー:ファーマーズフローリスト 西田啓子さん

最終更新: 3日前

今回は、フランス在住のファーマーズフローリスト、西田啓子さんをご紹介します。パリ中心部から60kmほど離れたベルサイユの少し先、シェライユという村にある花農園「レ・ジャルダン・ド・ラ・シェライユ」を拠点とし、フローリストとしての豊富な経験とスローライフを実践する中で得た自然との関わりを軸に、花のある暮らしを発信する活動を行っています。

西田さんは、フランスでずっと花のお仕事をされてきたのですね。どんな経緯で今に至るのか、簡単にご紹介いただいてもいいですか?

はい。1991年に渡仏しまして、パリのフローリストで研修後、花のアトリエ「アトリエ・ヴェルチュム」に8年間勤務し、フラワーデザインの修業をしながら、ブティックやウェディングの装花などを経験しました。その後、花を育てることに興味を持つようになり、2007年にパリから今の場所へ、家族で移住することになりました。



仕事内容も住む場所も変わった、大きな転機だったんですね。

そうですね。渡仏後に知人を通して知り合った、花や枝物の生産者であるクリストフ・ゴッドフロアさんとのご縁から、彼の農園の一角に家を借りて住むようになって13年になります。今は、農園でパリの花屋さんに出荷するための花を切ることと、敷地内の築200年の建物を改装した会場で行われる、地元のウェディングやコンサートなどのイベント装花や、生徒さんに花を教えることを仕事にしています。自然と触れ合いながら、庭から自分で切り出した花を使って、ブーケを作ってもらうレッスンです。



ファーマーズフローリストという職業名を、実は初めて聞きました。フランスではポピュラーなお仕事なのでしょうか?

いえ、そういうわけではなく、私自身4年ほど前に出会った言葉です。Farmer's floristとは、地産地消とエコロジーを基本姿勢に、地元の農家さんが育てた花や自分の庭で育てた花を使って、フロ-リストとして活動する人のことです。等身大の小さなビジネスですが、ヴィジョンは大きいと思っています。名前を付けてしまうと何となく型にはまってしまう感じもあるのですが、今の自分のフローリストとしてのあり方に一番近いと感じるので、あえてそう名乗ろうと決めました。「ファーマーズ・フローリストって何?」という疑問から人々が興味を持ってくれて、花の職業にはこんな形もあるんだな、と知ってもらえれば、という思いもあります。



なぜ、ファーマーズフローリストになろうと思ったのですか?

最初から大きな理念があって、自分のあり方を変えようとしたわけではないんです。花を束ねて売るフローリストという仕事は素晴らしいと思っていますが、長く働くうちに、花を装飾として扱うことから少し進んで、花という存在から受け取るものや、花を通して感じることを大切にしたいなと思い始めたんですね。たとえば、この農園には花も野菜も果樹も混在していて、決して効率よく生産しているわけではありません。そういう中で自然に育った、曲がり具合や伸び具合も違う、その時々の元気な花を切り、束ねていると、その違いがとても愛おしいし、一期一会だなと感じ、自然という大きな存在からインスピレーションを受けます。商品としての花ではなく、生物としての花に向き合うと、その先にある人間と自然の関係について考えることになります。そこに一番興味があるからなのかもしれません。


フランスに渡る前は、日本でも花の仕事をされていたのですか? 

はい。家の近所に素敵な花屋さんがあって、そこで2、3年働いていました。その頃、旅行でパリを訪れたときに、白と緑の花だけを置いているフローリストを見て、当時そういったお店はなかったので、強く印象に残ったのを覚えています。何というか、「私がやりたい方向はこれだ。これしかない」みたいな感じでした。思い起こすと、いつも自分が頼っているのは直感で、直感が直感を呼び、流れていって今につながっている気がします。


西田さんが、お仕事で一番大切にしていることは何ですか?

自然のままに寄り添うことでしょうか。たとえば自分が花を束ねるときは、あまり意図を強く入れずに、なるべく「花の思うまま」を生かせるような形を心がけます。花の茎の曲がり具合が自分の作ろうと思う形からすると邪魔だったりしても、花からすればそれが自然。それなら、とその曲がりを生かそうとすると、そこから展開できる形があるんです。デザインするというより、「花の思うまま」に自分が入っていくような感覚ですね。意図しないところに美しいものが出てくるところがとても面白いです。


お花のレッスンにとても興味があるのですが、どんなふうに進んでいくのでしょうか?

まずは、庭の案内からスタートします。1時間ほど庭の中を散策して、広大な自然の風景の中に咲いている花を見て、感じたことを作るときのヒントにしましょう、とお伝えします。その過程を通して、自分で鋏を使って花を切り、感じたままに束ねてもらいます。感じてもらうことが中心で、技術習得を一番の目的にしていないレッスンなんです。


レッスンにいらっしゃる生徒さんは、どういった方が多いのでしょう。

パリにお住まいの日本人や、日本からいらっしゃる方がほとんどです。花を職業にされている方が参加されることも多いのですが、咲いている花を見ることで原点に戻るというか、捉え方が変わったというご感想をよくいただきます。あるとき参加された花農家の方はこんな話をしてくれました。規格に合わないために出荷できず、咲いているのに捨てていた花があったそうなんですが、農園を開放して、それらを自由に摘んでもらう「花摘み会」を開催したところ、大好評だったそうです。シェライユの庭を回って花を摘み、束ねる体験から影響を受けたそうで、立ち止まってリセットするきっかけになったと話されていました。レッスンはコロナ禍でしばらくお休みしていたのですが、6月末から少しずつ再開しています。


今も世界中が大変ですが、フランスの状況は本当に深刻でしたよね。

どんどん事態が悪化していった3月以降、それまで過ごしてきた日常がこんなにも簡単に変わってしまうことに茫然としました。仕事にも大きな影響が出て、しばらく落ち込みや混乱があったのですが、その間も目の前には、変わらない自然の風景がありました。今のところ元気に暮らせているのに、この風景に目を向けずに、経済活動ができない不安や恐怖に気を取られてばかりではもったいないと思い、今の自分にできること、したいことはなんだろうと改めて考える機会になりました。


少しずつ日常が戻ってきましたが、そんな今、改めて目指していきたいこと、これからトライしてみたいことがあればお聞かせください。


人と実際に会ってお話しすることが好きですし、五感で経験することに勝るものはないと思いますので、お花のレッスンはずっと続けていきたいのですが、今の状況は長引きそうですし、まだまだ日本からフランスにお越しいただくことは難しいと思います。そこで考え始めているのは、ウェブを使った花のレッスンや提案をやってみたいなということです。レッスンといっても先程言いましたように、技術的なことが中心ではなく、自然が身近にあるフランスの田園生活から発信する「暮らしの花の提案」みたいなイメージです。

人それぞれに、暗い場所を明るく照らしてくれる光のような存在があると思いますが、私の場合はやはり、花を通して自然を身近に感じることでした。花や緑が空気のように周りにある環境の中で出会った、自然や花からもらう「ひかり」みたいなものを今、写真や文章を通じて共有できるツールがあることは、とてもありがたいです。自分の体験の共有にどれほどの意味があるのかわかりませんが、その小さな「ひかり」のようなものを共有することで、世界のどこかの誰かの、何かの気づきの出発点になることがあればいいな、そんな思いで今できることを考えながら、日々を過ごしています。


インタビューを終えて

とても素敵なお花の活動をしている人がいるから会ってみて!と、知人を介してお目にかかったのが最初。SNSに投稿されているお花の写真には、フランスの田舎の空気感まで写し込まれたような、のんびりと心地よい雰囲気が漂っていて「なんだろう、この癒される感じは……」と強く印象に残りました。この春、ひょんなきっかけから、久しぶりに最近のお話を聞くことができました。コロナの影響はとても大きいですが、西田さんは早い時期から、すでに前を向いて次のことを考え始めていたようです。このことをきっかけに、新たな提案や発信が始まるのかもしれませんね。今後のご活動を楽しみにしています。


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