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クリエイターズ・インタビュー:bp international tokyo代表 林田典子さん

今回のゲストは、テキスタイルの輸入ビジネスを営む林田典子さんです。ヨーロッパのテキスタイルメーカー6社のエージェントを務め、30社以上のパートナーシップを軸に、ヨーロッパと日本のインテリアテキスタイル業界の架け橋となって飛び回る林田さんに、お仕事や暮らしについて聞きました。

ヨーロッパのテキスタイルと輸出入、2つの大好きなことが仕事になったと語る林田さん。

今のビジネスを始めるまでの背景を教えてください。

アメリカ留学がきっかけです。カレッジのインテリア学科で学ぶために渡米したのですが、どちらかというと初めから輸出入の方に興味がありました。そのまま現地のアパレル系の輸出会社に就職して、しばらく輸出の仕事を担当してから帰国。その後11年間会社員をやって、独立して会社を作りました。


ずっとテキスタイルの輸入のお仕事なんですね。

そうです。テキスタイルの仕事は22年目、会社を作って13年目になるのですが、開発メーカーやエディターブランド、テキスタイルデザイナーなど、当初からの仕事仲間がヨーロッパを中心とした各地にいるので、彼らの商品を日本のマーケットに、エージェントとして良い形で届ける仕事ですね。自分の役割は、文化や常識、ビジネスの仕方の違いを踏まえ、両者の一番いいところを見つけて橋渡しをすることだと思っています。単に品質が良いことをアピールするだけでは売れないので、日本向けの企画アイディアを出したり、日本で売るための作戦を考えて提案したりするのは重要な業務です。


林田さんがエージェントを務めているテキスタイルブランドについて、いくつか教えていただけますか?

水だけで汚れが落ちる、スペイン製の「アクアクリーン」という椅子張りのファブリックがあるのですが、このブランドの日本展開の際に結果を出せたことで、スペイン本社が信頼してくれたことが大きく、ビジネスが軌道に乗りました。日本はクオリティ基準の高さでは世界一厳しいと言われますし、商談が始まってから実際にビジネスがスタートするまでに数年かかったりすることもあるので、そのあたりをよく説明してスペシャルなバックアップをする必要があります。とにかく信頼関係が大切なんです。

北欧テキスタイルの代表的なブランドのひとつ、テイヤ・ブルーン。

また、フィンランド生まれでスウェーデンで活躍する人気テキスタイルデザイナー、テイヤ・ブルーンと一緒に、ライフスタイルブランドオック・テイヤ・ブルーン」を作り、エージェントも務めています。北欧の美しい自然をモチーフにした親しみのあるデザインで、日本人の好みにも日本の家にもよく合い、おかげさまで愛されるブランドになりました。16年前に初めてテイヤに会いに行って、「インテリアを楽しむってこういうことなんだ」と心から納得できる、地に足のついた考え方に衝撃を受けたことを思い出します。美しい自然と自分の暮らし、家族や友人との共存、環境に対する考え方。見習うべきものがいつも見つかります。パリもロンドンもミラノも大好きですが、北欧はなんというか、ちょっと特別。日本との共通点も多いですし。そのためか、北欧デザインって、インテリアにすごく興味があるわけじゃない方々にも受け入れられるんですよね。


この春も、新しい北欧テキスタイルブランドのプロデュースをされましたね。

4月に「ノルディスカ・ティーゲル」というブランドを発表しました。コロナ騒動が一番ひどい時期、緊急事態宣言が出される直前のデビューになってしまったので、プレス発表会ほか、予定されていたお披露目イベントは全て延期になってしまいました。でも、デビューの日に公開した公式ウェブサイトと、その後オープンしたオンラインショップが好評で、本当によかったと思っています。

チキ・マットソンによる1967年のデザイン「NIPPON」。ダイナミックかつ繊細な線が和の空間に似合う。「ノルディスカ・ティーゲル」公式サイトより
1960年代、70年代のヴィンテージデザインを現代風に。5,000円台で手に入るクッションカバーは大人気。「ノルディスカ・ティーゲル」公式サイトより

ブランド誕生のエピソードをもう少し詳しく教えてください。

2年前の6月に開催されたインテリア&ライフスタイル展で、1960〜70年代の北欧ヴィンテージテキスタイルのコレクターの本を見せてもらったことがきっかけでした。すごい宝の山がここにはある!とひらめき、これをベースに日本向けの北欧ファブリックを提案したら素敵だろうなと思ったんです。そのテキスタイルを当時デザインした、現在は大御所となっているスウェーデンのデザイナーたちにコンタクトをとったら、皆さん快諾してくださり、ノリノリで盛り上がって制作してくださいました。当時のデザインを復刻するだけでなく、新しく模様を描き足したり、色を変えたりして、現代にふさわしいデザインに仕上げてもらえたと思います。錚々たる顔ぶれのベテランデザイナーの協力を得られたうえに、日本フィスバさんに販売代理店になっていただけたことも、とても心強いです。


スザンヌ・グルンネルによる1970年のデザイン「DUBBELFLÄTAN」。スウェーデンにて、林田さんのスナップより

半世紀近い時を超えて自分の作品が外国の地で甦るなんて、デザイナーの皆さん、喜んだでしょう。

そうなんですよ。デザイナーのチキ・マットソンさんの家に集まってもらって、出来上がった生地のサンプルを広げたら、みんな歓声を上げて大喜びしてくれました。「40年目のハプニングだ!」って。今回のプロジェクトを進める中でも、北欧の文化は日本と共通点が多く、日本人が北欧に深い興味と共感を抱いているのと同じくらい、あちらも日本に興味とリスペクトを持っていることを実感しました。(デザイナーたちの紹介ページでは、デザイン当時と現在のポートレートとプロフィール、日本へのメッセージを掲載しています)


いいお話ですね。では、林田さんがこの仕事を始めてから12年間、心がけてきたこと、ずっと大切にしていることは何ですか?

私がこの仕事で一番楽しいのは、チームを組んで作り上げるプロジェクト。それぞれのプロのみんなが気持ちよく力を発揮して、相乗効果を生んでいく過程が好きなんです。なので、先程も少し言いましたが、とにかく信頼関係を作ることが最も大切だと思っています。


これまでには、苦労も多かったのではないでしょうか。

心身ともにタフじゃないと務まらない仕事かもしれないですが、私自身は苦労した記憶はあまりないんですよ。いつも周りに助けられて、きっとツイてるんだと思います。でも、自分が気持ちよく過ごすための努力は結構しているかもしれません。肉体的にハードな日々でも、ずっと寝ているより気分がいいと思えばあえて早起きして大好きな散歩をしますし、リフレッシュできる環境、心の栄養になる場所になるべく自分を置いて、楽しく前向きな気持ちで過ごす努力を自然としてきたような気がします。

北鎌倉と東京の二拠点生活が、暮らしや働き方を見直すきっかけになったそう。

プライベートのことも少しお聞きしていいですか? 北鎌倉に週末ハウスをお持ちだそうですね。

私、本当にこれまでずっと仕事ばかりしてきた人生だったんですが、そういう暮らし方にだんだん疑問を感じてきていたんですね。そんな昨年秋、鎌倉に古い一軒家を見つけて借りて、週末だけ通うようになったら、なんだか生活に張りが出て、人生観が変わってきました。北鎌倉と東京を行ったり来たりの二拠点生活は、時間の流れが変わって、まるで人生を二倍楽しんでいるような感じです。

しばらくしてコロナ騒動があって、自粛期間中はずっと鎌倉の家で、家や庭のことをしながら過ごしていました。インテリアの仕事に長く携わっている私ですが、気持ちのいい住環境が人間にとってどれほど大切か、改めてわかったし、豪華にすることじゃなくて、心が豊かになる生活のしかたを自分でも実行していこうと思いました。そういう「丁寧な暮らし」は、先程お話ししたテイヤをはじめとする北欧の人々と出会って教えられたことでもあり、私の一生の目標というか、ずっとやり続けたいことにつながる気がしています。

これからやりたいことが、いろいろあるんですね。

そうなんですよ! まず延期になっているノルディスカ・ティーゲルのお披露目を実現したいです。先程お話ししたデザイナーたちの活動を伝えたいし、日本の皆さんにも会ってほしい。とっても魅力のあるおばちゃんたち(笑)なので! 商品を作って販売するだけではなく、このブランドにはいろんな方面の可能性があると思うので、いろんな業界のプロに参加してもらって、それこそ数十年単位で育てていきたいんです。


インタビューを終えて

林田さんの印象は、いつもハイテンションでフットワークが軽く、楽しそうな人。以前仕事で何度かお会いしたときから、とにかく元気のいい女性だなと思っていましたが、今回じっくりお話をしてみて、内側に情熱のエネルギーをたくさん持っていて、それを常に自分で燃やし続けるための工夫ができる人なんだとわかりました。新ブランド「ノルディスカ・ティーゲル」の展開はもちろん、二拠点生活のその後についても、またぜひお話を聞かせてくださいね。


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