クリエイターズ・インタビュー 石黒久美子さん(インテリアデザイナー)

最終更新: 2019年8月26日

今回は、インテリアデザイン、自身でセレクトした輸入家具や照明の販売、そしてそれらを使った空間づくりに携わる住まいのプロをご紹介します。ファヴォリインターナショナルの代表を務める、インテリアデザイナーの石黒久美子さんです。


インタビューの冒頭でみなさんに聞いている質問なのですが、石黒さんは何のプロフェッショナルですか? ご自身の表現で教えてください。

みなさんの住まいや職場で、思い描く理想の空間や夢の暮らしを具現化し、実現するお手伝いをするプロです。


インテリアデザインとインテリアアイテムの販売、両方に携わっているのが石黒さんのお仕事の大きな特徴ですね。

はい。インテリアデザインの仕事を始めて9年目あたりで、イギリスやフランスから家具や照明を輸入する業務をスタートしました。インテリアデザイン部門の「アトリエ ファヴォリ」と、インテリアアイテム輸入販売部門の「サロン ドゥ ファヴォリ」があり、南青山のサロンで商品を見ていただけるようにしています。



南青山の予約制インテリアサロンは、石黒さん独自の軸のある美意識が形をとったもの。各ブランドのアイテムを組み合わせたシーンも素敵。

トム・フォルクナーのサイドテーブル「Lily」。天板がスチール、大理石、ブロンズのタイプもあります。© Tom Faulkner

どうして輸入販売事業を始めようと思ったのですか?

私はインテリアデザインの仕事をしながら、年に2、3回、欧州に行ってインテリアの視察や買い付けをします。現地のホテルなどで見かける、エレガントでいてすっきりしたコンテンポラリーなテイストのアイテムをお客様の物件に使いたかったのですが、日本ではなかなか見つからなかったんですね。そんなとき、面識のあった英国の家具デザイナーのトム・フォルクナー氏がプライベートで来日した際にお会いし、一緒に何かできたら……という話になったのが輸入をスタートするきっかけになりました。あっという間に物事が決まっていって、準備や対応で追いつくのが精一杯だった記憶があります。また、もとの輸入代理店さんが会社をたたむことになって引き継ぐような形になったブランドもあり、オープン時には6社を取り扱うことになりました。この8月末に英国のファブリックブランドがデビューするので、それで7社めになります。


確かに、どれもちょっと他では見かけないデザインですね。日本の住空間にハイセンスなアクセントを加えてくれそうです。

ありがとうございます。これらのアイテムを日本のお客様にもっと広めていくのが、私の使命だと思って日々がんばっています。最近、女性誌やインテリア誌などでも少しずつ取り上げていただけるようになってきました。

© Chesneys

石黒さんが惹かれるデザインに共通点があるとしたら、何でしょうか?

凛とした佇まいのあるものが好きですね。また、テイストがシックであろうと、また派手であろうと、組み合わせたときに美しさが発揮されるフォルムや色彩、テクスチャーを選んでいるような気がします。


© Curiosa&Curiosa

ご自身がインテリアデザインの道に進むまでのことを教えていただけますか?

私は独身時代、地元の愛知県とお隣の静岡県で英会話の講師をしていたんです。仕事はなかなか忙しくて、当初9人だった生徒数が最終的には100人を超え、そのうち講師をしながら中部地区の講師の方々の指導をまかされるようになり、テレビCMやメディア向けの模擬レッスンも担当するなど、かなりがんばって働いていました。結婚して上京することになったとき「この仕事はもうやりきったな」と思ったのですが、やめさせてもらえず(笑)、東京本社でレッスンのマニュアル作りなどの仕事をしていました。そうこうするうちに夫の海外転勤が決まり、シンガポールに引っ越すことになって退職しました。


ちょっと小休止の期間があったのですね。

はい、専業主婦をしていた時期もあったんです。シンガポールには3年ほど住んでいたのですが、同じく海外赴任で現地に来ている外国人の友達ができました。彼らの家に遊びに行くと、どこもまるでリゾートホテルのような素敵なしつらえのインテリアでした。自国から持ってきた家具にシンガポールで買ったものやアートを加えた、上質なミックススタイル。みんな身なりや持ち物にはそれほどこだわらないのですが、家のことにはとても手間やお金をかけている人たちでした。そんな環境で過ごすうちに、いつしか「インテリアを勉強してみたい」と強く思うようになったんですね。そこでロンドンのアートカレッジにインテリアの短期留学をしました。


シンガポールからロンドンに旅立ったのですか? お一人で?

そうです。イギリス滞在は大学卒業後の留学以来でしたが、思い返せばそのときのホストファミリーもインテリア好き、アート好きでした。日常生活の中にアンティークが溶け込んでいる当時の暮らしも懐かしく、初めて学ぶインテリアの世界は新鮮で、大きな刺激を受けました。授業でさまざまな最先端インテリアブランドのショールームを見たのも忘れられません。


なるほど。最初にイギリスで学んで、それから日本で勉強を続けられたんですね。

はい。日本に帰国後も勉強を続け、インテリア、照明、収納など、日本の住関連のさまざまなプロ資格を取得しました。また、仕事をしながら澤山乃莉子さん主宰のインテリアカレッジに1期生として参加し、英国のインテリアデザインのディプロマと、のちに英国インテリアデザイン協会(BIID)正会員の資格も得ました。この時期、プロに必要な専門知識全般はもちろん、インテリアデザイナーとしての仕事のしかたや志について大いに刺激を受けました。この頃一緒に学んだ仲間とは今でも親しくしていて、仕事の場面でいろいろ助けてもらうことも多いです。


石黒さんにインテリアデザインを依頼されるお客様は、どんな方が多いですか?

偶然かもしれないのですが、海外生活を経験したことのある方が8割くらいいらっしゃいます。インテリアに興味はあるけれど、プロの助けを借りて作り上げたいと思ってくださる方ばかりです。あと、ファッショナブルでおしゃれなご夫婦が多いような気がします。


語学が堪能であることや海外での経験が全部お仕事に生かされて、ここまでトントン拍子で来られたように思えますが、苦労したこと、大変なことはありますか?

いえ、私はまだまだですし、毎日本当に必死ですよ! 大変なのは、やはり新しいブランドを広めていくには時間も手間もかかるということでしょうか。どの取り扱いブランドも本国では有名なのですが、日本ではまだほぼ無名なので、この魅力をみなさんに知ってもらって世の中に浸透させていくために、日々試行錯誤を続けています。


ウィットの効いたディテールも可愛い日本向け別注サイズのランプ。球の部分の色が選べます。© Margit Wittig

それでは、今手がけているプロジェクトのことを少し教えていただけますか?

イギリスの照明ブランド「マーギット・ウィッティグ」のテーブルランプを、日本仕様に少し小さくしたオリジナルモデルを発売したばかりです。チェストやコンソールを飾るのにちょうどいいサイズです。また先程も言いましたように、8月末に、7つめのブランドがデビューしました。「ブラックポップ」という、歴史や知性をポップに再構築した、かなりとんがったテイストと世界観のあるファブリックブランドです。壁紙もあるのですが、まずは取り入れていただきやすいクッションを取り揃えました。


では、プライベートで今注目していること、凝っていることは何ですか?

この輸入事業の仕事を始めてから、実はプライベートがほぼないんです。以前は書道やお茶やお花、着物など、和のお稽古が好きだったのですが……。5年以内には、また和のお稽古を復活できたらと思っています。平日はくたくたになって帰宅し、休日も外に出かける体力が残っていないので、現在のところは、ときどき家に人を招いてホームパーティをすることが数少ない趣味でしょうか。でも、料理をしてくれるのは夫で、私はお話担当なんです(笑)。


留学にも快く送り出してくれたそうですし、本当にいいご主人ですね。

はい。私は土地柄も家庭も「女の子はこうあるべき」という環境で育ったので、当初は「こんなに夫に甘えていいものか」という抵抗がありました。でも長年の間に、それが彼の喜びでもあると理解して、今や愚妻街道まっしぐら(笑)です。夫はいつも「自分の仕事も巡り巡って人の役に立っていると思うけれど、直接誰かの役に立ち、目に見える形で喜んでもらえる君の仕事は素晴らしい。僕は200%応援する。自分の夢でもあるから」と言ってくれています。謙遜するとバチが当たると思うので、私は外でも「夫には心から感謝している」と言います。


うーん、なんと素敵な組み合わせ! では最後に、石黒さんの未来の目標を教えてください。

今は、取り扱いブランドの知名度を上げていくことが第一の目標ですが、その他では、いつか男性向けのインテリアレッスンをやりたいなと思っています。6回くらいのコースで、ワインを飲みながらとかね。男性って車や時計をいくつも所有するなど、一度凝ったら没頭する傾向があるし、インテリアのセオリーは論理的なので、興味を持ってもらえると思います。「ロンドンでは高級車を持っている男性よりも、素敵な部屋に住んでいる男性のほうがモテるんですよ!」なんていう話から、家を大好きな空間にする大切さを伝えられたら。今、インテリアデザインをご依頼くださるお客様は男性も多いのですが、どのお宅でもご主人がこんなふうにインテリアに興味を持ってくれたら、日本のインテリアはもっともっとよくなると思うのです。


インタビューを終えて

上品で落ち着いた物腰で、いつも静かに微笑んでいる石黒さんですが、日本ではまだあまり知られていない海外のインテリアブランドを7社も、次々と輸入にまでこぎつけてしまうなんて、並外れた情熱と行動力がなければできないことです。自身が惚れ込んだ、ストーリーのある上質なものを、お客様の家でも使ってほしいという誠実さの表れだと思うし、優雅に見える世界のバックヤードでは、さぞかし大変なこともあったのだろうな、と想像します。そんな心意気あふれる人だから、男性向けのインテリアレッスンも、和のお稽古復活も、その言葉通り将来必ず実現されるでしょう。それにしても、素敵なご主人でうらやましいです!


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