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クリエイターズ・インタビュー:島田幾子さん(karf)

今回のゲストは、目黒通りのインテリアショップ「karf」の島田幾子さん。ご主人の島田雄一さんとともに、ベーシックで上質な仕立てのオリジナル家具とセレクトしたヴィンテージ家具を通じ、住む人の暮らしに寄り添う心地よい空間を提案し続けて32年。インテリアの仕事に加え、家族と暮らしについて思うことなどを伺いました。

島田さんは、ご自身の言葉で表現すると何のプロということになりますか?

幾子さん:はい、karfの中ではですね……(とインタビューを始めていたら、たまたま近くを通りかかった雄一さんが隣に座って、最初の質問だけ一緒に答えてくださいました)

雄一さん:「こんなもの作りたい」というところからスタートするのが僕のアプローチ。スペックや職人的なハード面の話が得意で、ときには溶接ポイントやエッジの角度など相当細かい話にもなるんですが、彼女はそういうことも含めたうえでkarfの家具を、使い手目線、家族目線をもって、よりよい環境で魅力が伝わる見せ方を提案する役目を果たしてくれています。

幾子さん:そう、家具づくりと暮らしをつなげる役割ですね。実際の使い方や、空間における気持ちのいい組み合わせ方の提案を、個人的な暮らしの実感からのフィードバックも含めて行っています。マンションと一戸建ての家具の置き方の違いなど、実体験で感じたことをお店の中で伝えていく役割もあります。


幾子さんがお仕事をするうえでいちばん大切にしていることは何ですか?

何をするにも自然な流れがあると思っているので、不自然なことはしないかな。少しタイミングがずれても、自然な流れに従うようにしています。何か問題があるときは無理をしてもうまくいかないので、風が吹くのを待ってみよう、と自分でタイミングを試すときもあります。インテリアのディスプレイも同じで、入り口に立ったときに見える景色や視線の流れが気持ちいいと思える、自然な空気感を心がけています。マニュアルもないし、言葉にしにくいことですが、何が自然なのかは繰り返しやってきた感覚が覚えています。以前はそれを言葉で伝えられないとダメだと思っていたのですが、今は逆にその感覚が強みになるかもしれません。マニュアルにない、AIに取って代われない人間の面白さとも言えると思うので。

karfの1階入り口付近のディスプレイ。トレンドをほどよく取り入れ、気持ちよく視線が流れるように配置。

東京の都心でインテリアショップを30年以上続けるのは並大抵のことではないと思います。大変なことも多かったのではないでしょうか。

創業当時と比べて今はスタッフも増え、事業も広がったので、責任が重くなった分大変とも言えますが、今思い出したのは、恵比寿で10坪くらいの小さなお店を3人でやっていた頃のこと。その日のうちに済ませなければならない支払いがあって、でもどうにも工面ができず困り果て、万策尽きたと皆でうなだれていました。すると閉店直前の時間にお客様が見えて「前からこの家具が欲しかったんです」と言って、その支払い額を優に超える価格の家具を、しかもキャッシュで購入してくださったんです。

ゆったりと家具を見て回れる3階建てのビル。2階の階段上から目黒通りに向かった窓を望む。

すごい! 神様は見ているんですね。

八方塞がりの状況になったとき、突き詰めて考えては堂々巡りになって、とことん落ち込んで、そのうち考えるのにも疲れてきます。それで「もういいや、考え尽くしたし、手も尽くした。きっとなんとかなる!」と覚悟を決めた瞬間、不思議なことに何かがやってくるんですね。これに近いことをいくつか経験して思ったのですが、腹をくくって覚悟を決めてからが本当の勝負だなぁと。できる限りを尽くすのは自分のモットーですが、主人も同じ考えを持っていると思います。


どこまでも前向きです。

そうですか? 何か悩みがあるとき、愚痴を言っている暇があったら、そのために何ができるか考えたいんですね。解決策があるときは落ち込まないです。すぐに策が思いつかなくても、ひっくり返せばどうなるか?と自分に聞きます。困ったときの処方箋はたくさん持っている方だと思います。


ところで、二人の息子さんはどちらもスポーツ界で活躍されていますね。

はい、長男はサッカーやセパタクロー(東南アジア発祥で、籐製のボールを使って足で行うバレーボールのような球技)を経てフットサルに転向し、Fリーグのチームで活動していましたが、先日現役選手を引退しました。今はまたサッカー界に戻って仕事を続けています。次男はパルクール(フランス発祥で、周りの環境を使って走る、跳ぶ、つかまる、登る、バランスを取るなどの動作をすることにより、人間が本来持っている身体能力を引き出すトレーニング)を高校から始めて10年ほどになります。日本ではまだ新しいスポーツなのですが、先日初めての日本選手権(オリンピックに出るための公式試合)の委員長を務めるなど、日本における認知度を上げるという使命で活動しているようです。


(次男のZENさんが自らのパフォーマンスとナレーションでパルクールを伝えている、超かっこいいPVをご覧ください)


以前実例取材をさせていただいたとき、インテリアの話はもちろんですが、運動選手の食事管理のお話も興味深かったです。

はい、息子の食生活トレーナーの指導で、栄養バランスや食べ方を学んだことはとても役に立ちました。試合前に食べるとよいものとか、たとえば練習から戻ったら最低でも1時間以内には、ビタミンとタンパク質を食べさせると筋肉が効率よく回復するなど。食べ方はタイミングも大切なんですね。


パルクールに関しては、karfさんが日本で初めて専用のトレーニングジムをプロデュースされました。インテリアのプロの視点が生かされた、とても美しい施設ですね。

当初は息子のスポーツと私たちの仕事に接点があるなんて考えていませんでした。でもジムを作るという話を聞いたとき、インテリアを提案する仕事をしているのに、家族が取り組んでいるスポーツの環境を別の人が作るのはどう考えても自然じゃないと思ったんですね。そう言って、初めはピンときていなかった主人を珍しく説得しました。しばらくすると彼にもスイッチが入ったようで、土地探しやデザイン、設計などすごい集中力で1軒目を完成させていました。各地に施設ができている現在はプロデュース的な仕事のみ行っていますが、パルクールデザインラボは、そんなところから生まれたプロジェクトなんです。


普段から心がけている、人生を楽しむための秘訣はありますか?

人の存在を通して、その人の持っている自分にないものを見てみたいという気持ちがあるんですね。その人の仕事や生活を通して、その後ろにある人やものを見るのが楽しいんです。たとえば子育て中は小学校のお祭りに参加したり、高校の文化祭の話を聞いたりして盛り上がることで、自分がもう一度子ども時代や青春時代をやり直しているみたいなワクワクした気持ちになりました。息子が興味を持ったスポーツが、たまたま親がかりで取り組まないといけないものだったので、一緒に体験する流れになったのも結果的によかったのかもしれません。主人や息子のやっていることを通して、自分だけでは見ることのできない景色を見ることができ、人生を2倍3倍に楽しめていると思います。


そのこともあって、この春にご自身の発信サイトを始められたのですね。

はい、そんなことをいろいろ考えていて、発信したいことがたまってきたな、と思ったからです。このことも先程言った「自然な流れ」で、あのタイミングより前でも後でもなかったですね。小さな子どもの頃から人が無意識のうちに触れるもの、人間形成が行われる環境は大切、ということが私のメッセージの柱になっています。自分たちも完璧ではないので、小さな子どもも含めたすべての人たちのいいところを見て、リスペクトしたいという心からの思いを伝えたいと思っています。


インテリアに長く関わってきたプロの視点と、子育てを通して知ったことも含めて語った、幾子さんならではの内容です。

家具のメンテナンスの話から、子育てを卒業した立場から思うことまで、書きたいことはいろいろあって、なかなか筆の方が追いつかないというのが現状です(笑)。小さな悩みがあったり、なんだか毎日を楽しめないなぁと思ったりするときに、読むとふと気が楽になるような、そんなコラムになっているといいなと思って続けています。


最後に、今後の抱負について教えてください。

karfでは、今年の夏に展示会で新しいオリジナル商品を発表しました。karfってこういう家具屋です、という方向性をしっかり出すこと、その部分を改めて整えていこうという話をしています。ベーシックで質のよいものにそれぞれの個性をトッピングすること。今振り返って、家具作りに対する姿勢も、暮らしについて考えていることも30年前から変わっていないと再認識しています。目黒通りは商業施設とはまた違う、ストリートでつながった連帯感がとてもいい環境なんです。今、インテリア分野も食分野も若い世代ががんばっていて、元気なエリアでいられるのは、彼らの力も大きいです。

ウェブサイトのコラムは、コツコツ書きためていくことが目標です。いつか絵本が作れたらいいな、なんて考えています。誰にイラストを頼むかももう決めているんですよ!


インタビューを終えて

会話を聞いていると、お互いにリスペクトし合っていることが感じられる幾子さんとご主人。きっと息子さんともそういう関係なんだろうな、と思います。昔からkarfの家具のファンでしたが、島田夫妻と親しく話すようになってからさらに好きになりました。karfのロングセラーのソファ「Regent Klassik」の座り心地のように、気持ちよくくつろげるけどシャンとした背骨のある、人生に対する姿勢が本当に素敵です。これからもご活躍を応援しております!


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