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クリエイターズ・インタビュー:上田淳子さん(料理研究家)

今回のゲストは、料理研究家の上田淳子さんです。多数の料理本の著書があり、そのほとんどが増刷を重ねているというヒットメーカー。広く深い専門知識、料理人としてヨーロッパのレストランの厨房で働いた体験、双子を育て上げた暮らしの実感、20年におよぶ料理研究家としての経験値をベースに、さまざまなアプローチで現代の食を見つめる上田さん。最近では『並べて 包んで 焼くだけ レシピ』(主婦と生活社)、『子どもはレシピ10個で育つ。』(光文社)など、新しい視点の料理本も話題。雑誌の連載や特集、テレビやイベントへの出演や講演会など、食をテーマに多彩な活動をされています。

数え切れないほどのアイディアと料理が生まれてきたキッチンの前で。写真提供/上田淳子オフィシャルサイト

現在携わっているプロジェクトについて教えていただけますか?

最近は料理の単行本の制作が続いていて、毎回違うテーマでまるごと一冊一冊を作っていくのがとても面白く、やりがいを感じています。3月初めに『仕込みと仕上げ合わせて最短10分! 帰りが遅くても かんたん仕込みですぐごはん』(世界文化社)が発売になりましたが、4月末にも新刊が出ます。現在、制作進行中のものが2冊、企画中のものが2冊あります。


昨年、年間6冊というハイペースで料理書を出版されていましたが、今年もすごい勢いですね。こんなに多くの著書を続けて出す料理研究家は数少ないと思うのですが、ご自分では今の状況をどうお感じになっていますか?

いただくお仕事や頼まれた内容、つまり目の前のことを、毎回ただ淡々と全力でやってきたら、今の状況になっていたというのが本当のところです。スタンスは昔から全然変わらないんですよ。初の単独著書を出したのは16年ほど前ですが、コツコツ積み上げてきた結果なのかなぁ、と自分では思っています。


上田さんのウェブサイトを見ると、「上田淳子の仕事、3つの形」とあり、フランス料理、子育て、普段の家庭料理と分かれています。この柱はどんなふうにできてきたのでしょうか?

私はもともとフランス料理を学んで、料理人として仕事を始めたのですが、結婚して双子が生まれ、請われるままに赤ちゃんの離乳食から幼稚園のお弁当、子どもクッキングなどの本を、子育てをしながら作ってきました。そんな目まぐるしい日々の中で、毎日の食とどう向き合うかという課題についても同時に考えていて、その中で見出していった解決方法が、いつの間にかもう1本の柱に育っていったという感じです。

なるほど。そのお仕事の3つの柱ができてからはどうですか?

すっとした、ほっとした、腑に落ちた、という感じですね(笑)。そうなる以前は、自分の立ち位置が見えず、私は何の料理研究家なんだろう? と少し悩んだこともありました。でも、自分から「私はこうです!」と高らかに宣言するのではなく、先程も言ったように、目の前にあることをコツコツとやり続けていたら、オーダーされることが自然ときれいに3つの分野にまとまってきて、それぞれに自分の実感を込められるようになっていきました。


悩んでいた時期があったんですね。その間はどんなふうに考えていたのですか?

自分の置かれた状況を俯瞰的に見て、これをダメだと見るか、または、これが仮に「底」の状態なら、そこからどう上がっていくかを考えるかで、その後の行動は変わってきますよね。悪い方に考えて落ち込んでいても仕方ないし、せっかくなら良い方を向いて、自分の描いた幸せを考えたい。難しいことに直面したときは、いつもそんなふうに考えて乗り越えてきた気がします。


料理人出身で、子育てをしながら家庭料理の本をたくさん出してきた人は珍しいですよね。

ほとんど前例がないので、誰かに教えを請うということもできず、やり方は自分で見つけるしかないと思っていました。仕事は家事育児をしたうえで、という自分の中の約束や、無茶をしない、じっくり考えて行動に移す、というもともとの性質もあって、振り返ってみると20年間、徹底的に自分で自分に叩き込んできた結果の立ち位置なのかもしれないな、と思います。また日々暮らすなかで伝えたいことや、これができたら便利だろうなと思ったことを企画にまとめて提案したりもしていました。先程「請われるままに」と言いましたが、出版でいうと、実際は持ち込み企画の方がずっと多いです。


上田さんの料理の系譜にある「お悩み解決型」は、そんな歩みから生まれてきたんですね。

子育て中のお母さんや忙しい共働き夫婦、料理に苦手意識のある人などの、料理と食にまつわるさまざまな悩みを聞く機会が、この仕事をしているとたくさんあります。また自分自身の子育てや遠くに住む両親のことなど、人生で経験してきたことも含め、そのときどきの課題についてひとつひとつ解決方法を考えてきたことが、一冊一冊を作ってきたと思います。


このインタビューでみなさんに聞くことなのですが、上田さんはご自身の言葉で表現すると、何のプロフェッショナルですか?

そうだなぁ。「料理をするすべての人が、幸せになるためのお手伝いをする人」でしょうか。


子どものお弁当作りに悩む人からワイン好きのグルメまで幅広く、すべての人ですね。そんな上田さんが普段、お仕事をするうえでいちばん大切にしていることは何ですか?

ワクワクするかどうか、です。自分もワクワクするものを作りたいし、相手にもワクワクを感じてほしい。それが仕事をするときに一番に考えることでしょうか。

では、いま注目していること、凝っていることはありますか?

いろいろありますが、ひとつは「50代の飲み方」です。年を重ねてきて、若い頃ほど量が飲めなくなってきているけれど、これからもお酒と楽しく付き合っていきたい。50代からの年代、一人でも誰かと一緒のときでも、無理をせずに気持ちよく飲むことが上手にできるといいなと思っています。たとえば、これまでどちらかというとワインを飲むことの方が多かったのですが、最近は日本酒の魅力に改めて開眼しています。試飲会に参加したり、蔵元を訪ねたり、料理との組み合わせを試したり。お刺身とワインを合わせるように、ハムと日本酒も合わせるのも楽しい。枠にはめずにのんびりと、新しい体験を楽しんでいきたいです。


これもみなさんに聞いていることなんですが、「私はこんなことで人の役に立てる」と思うことを、ひとつアピールしていただけませんか?

役に立てる……、難しいですね。でも、役に立つって自分が決めるんじゃなくて、相手が決めることじゃない? お料理を教えた相手から「このレシピよく作るんです、役に立っていますよ」と言われたら本当にうれしいけれど、自分からは「これ役に立つよ」って言わないかなぁ。


その通りですね。今度から質問の仕方を変えないと。勉強になります。では、これからやっていきたいことや今後の目標はありますか?

今回、インタビューに答えていて改めて気づいたのですが、私、自分からあまり考えを人に語らないんですよね。今までずっとこんな調子でやってきたので、正面切って聞かれると困っちゃう(笑)。やりたいことは今ちゃんとできているし、言ったことを実行しなかったら、自分にとっては敗北になるので。実現したいことは、公言する前に着々とやって実現させるものだと思っているんです。


そうか、なるほど。かっこいいです。では最後に、いつもキッチンに立っているときに考えていることを教えてください!

「おいしくなーれ」です。それは普段の家族のごはんを作っているときも、誰かを家に招いてもてなしているときも、単行本の撮影で料理を作っているときも差はないです。その日の素材をベストの状態で送り出すこと、そのことだけ考えていて、無心であることが多いですね。


インタビューを終えて

暖かく包み込むような母性を感じさせる、自分に厳しい努力の人。前向きでいつもまっすぐな上田淳子さんと話していると、リラックスしながらも背筋がピッと伸びる気がします。大活躍の現在のご自分についても実に客観的で、数年後の未来も見据えて話してくださったのが印象的でした。上田先生に教わりたいことはこれからもたくさんあるし、その作品と発信を楽しみに待っている人々はそれ以上にたくさんいると思います。これからもずっと、上田さんらしい多彩なご活躍を応援しています!


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